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固定残業代のメリット・デメリットについて

「固定残業代」とは、その名称にかかわらず、一定時間分の時間外労働、休日労働および深夜労働に
対して定額で支払われる割増賃金のことです。
「みなし残業代制」とも呼ばれることがあります。

固定残業代は、労働者・企業側のそれぞれにメリットとデメリットがあります。
また、固定残業代にはルールがあります。
今回は固定残業代について解説します。

目次

(企業側)固定残業代のメリットとデメリット

固定残業代制度には、企業にとってメリットとデメリットがあります。
導入を検討する場合は、メリットとデメリットを十分理解する必要があります。

メリット

【残業代の計算が不要になる場合がある】
企業が固定残業代を導入すると、一定時間までの残業代については計算が不要となります。
例えば、「月10時間の時間外労働分は固定残業代に含む」という場合、実際に行った残業時間が0時間でも5時間でも、支払う賃金額は同じとなります。時間外労働が10時間を超えない場合は、残業代の計算が不要となります。変動する残業代に伴う社会保険料や所得税の確認も不要となります。

【人件費の把握が容易になる】
企業が固定残業代を導入すると、残業代が固定されるため、賃金の大幅な変動を抑制できます。
企業の支出の中で大きな割合を占める人件費を予め把握できるので、企業にとっては資金繰り計画を立てやすくなります。
ただし、一定時間を超過した時間外労働については、残業代の支払いが必要です。
また、固定残業代により人件費の把握は容易となりますが、人件費の総額を減らせる効果はありませんので注意が必要です。

【生産性向上が期待できる】
固定残業代を導入すると、一定時間までは残業をしてもしなくても従業員に支給される賃金は一定となります。
「少し残業しても賃金は同じだから、早く仕事を終わらせて定時で帰ろう!」という従業員が増えれば、生産性向上を期待できます。
従業員が所定労働時間内に集中して業務に取り組むことで、長時間労働しづらい職場に変わることも期待できます。
また、終業時間が早くなることで光熱費等の経費削減も見込めます。

【割増賃金の算定基礎から除外できる】
通常、時間外労働の残業代は、労働基準法37条・労基則19条の規定通り「通常の賃金の時間単価×時間外・休日・深夜労働時間数×割増率」で計算します。
固定残業代は、労働基準法37条5項、労基則21条各号に限定列挙された除外賃金には該当しませんが、残業代を基礎に残業代を計算するのはおかしいので、割増賃金の実質を有する固定残業代は割増賃金の算定基礎から除外されることになります。
ただし、最低賃金を下回るなど労働基準法の条件を満たさない場合は違法となる可能性もあります。

デメリット

【人件費が増加する可能性がある】
固定残業代は、残業代を支給しなくても良いという制度ではなく、一定時間の残業代を含む賃金を支給する制度ですので、従業員の残業時間が一定時間の上限に届かなくても、残業代を含む賃金の支払いが必要なので、人件費が嵩むことになります。
そして、一定時間を超える時間外労働が発生した場合は、固定残業代の上限を超えた時間分の割増賃金を支払う必要があります。
そもそも残業が発生しにくい企業の場合は人件費が増加する可能性があります。

【不必要な残業をする従業員が発生する可能性がある】
固定残業代は賃金に含まれてますが、一定時間を超える時間外労働が発生すれば、その超えた時間分の残業代は支給しなければなりません。
「一定時間を超える時間外労働をすれば賃金が増える」といった認識をする従業員がいた場合、不必要に残業をする可能性があります。
時間外労働は会社命じた場合に行うものという認識を会社全体で共有することも必要となします。

【長時間労働になる可能性がある】
固定残業代は一定時間の残業代があらかじめ給与に含まれているため、管理者が「一定時間までは残業をさせても問題がない」とか「定時退社させるのはおかしい」といった誤解をし、時間外労働を命じることで長時間労働が常態化する危険があります。
固定残業代を導入する場合は、管理者の理解や意識改革も必要となります。

【求人募集の際に敬遠される可能性がある】
実際には残業があまり発生しない会社でも、求人票に「固定残業代〇時間分」と記載されていると、「残業が毎月〇時間はあるんだな」と誤った捉え方をされる可能性もあります。
固定残業代を敬遠する求職者もいるため、人材確保の面で不利となる可能性があります。

(労働者側)固定残業代のメリットとデメリット

労働者側においては、労働基準法が正しく適用されている場合は、固定残業代にはメリットが多いと考えられますが、デメリットも考えられます。

メリット

【収入が一定化し安定する】
1年を通じて繁忙期と閑散期の差がある企業では、毎月の残業時間に差が生じるため、収入が不安定になります。
固定残業代を導入すると、時間外労働が少なかったり、全くしなかった場合であっても、労働者は固定残業代の支給を受けることができます。
固定残業代により従業員の収入が安定することはメリットと言えます。

【業務効率化によりプライベートの時間を確保できる】
固定残業代では、従業員が定時で帰宅するため、業務遂行の方法を工夫したりして残業時間を削減することで、従業員の能力向上やワークライフバランスの実現も叶います。
業務効率化により時間外労働が減ったとしても、固定残業代により収入を確保できることは、従業員にとっては大きなメリットです。

【一定時間を超えた時間外労働はその分残業代が支給される】
固定残業代では、一定時間の固定残業時間を超過した場合には、その超過した時間分の残業代が支給されますので、1箇月の時間外労働が固定残業時間を超えた場合でも、固定残業代とともに一定時間を超えた時間分の残業代が支給されます。

デメリット

【基本給が低く設定される場合がある】
固定残業時間に達していなくても固定残業代を支給し、固定残業時間を超過した場合は、追加の残業代を支払う必要があるため、固定残業代を採用している会社は、採用していない会社と比較して、より多くの残業代を支給することになります。
固定残業代を採用している会社では、残業代の負担を見越して、基本給を低く設定することが考えられます。
基本給を基に賞与の算定を行っている場合は、賞与額が想定よりも安い場合も考えられます。

【追加残業代が支払われないことがある】
固定残業時間を超えたら、固定残業代に加えて超過した時間外労働に見合う残業代の支払いが必要となりますが、労働基準法を遵守しない会社や、固定残業代について理解が浅い会社では、毎月定額の固定残業代のみ支給する場合もあります。
このような会社の場合は、長時間の時間外労働をしたとしても、残業代が十分に支払われない可能性があります。

【長時間の時間外労働を強制される】
「固定残業代を支払っているのだから」といって、従業員に対して一定時間の残業をすることを義務化する会社にも注意が必要となります。

みなし残業(固定残業)制度を導入するためのポイント

固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示が必要となります。
固定残業代制を採用する場合は、募集要項や求人票などに、次の①~③の内容すべてを明示する必要があります。
① 固定残業代を除いた基本給の額
② 固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
③ 固定残業時間を超える時間外労働、 休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨

【時間外労働について固定残業代制を採用している場合の記載例】
① 基本給(××円)(②の手当を除く額)
② □□手当(時間外労働の有無にかかわらず、○時間分の時間外手当として△△円を支給)
③ ○時間を超える時間外労働分についての割増賃金は追加で支給

深夜労働や休日労働について固定残業代制を採用する場合も、同様の記載が必要となります。

固定残業代の導入は、正しい理解に基づいき、しっかりと検討することが大切です。

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