〔2024年4月改正〕労働条件明示等に関するQ&A
2023年8月9日のブログでお知らせした労働条件明示に関するルール変更についてのQ&Aをご紹介します。
目次
- ○ 令和5年改正労働基準法施行規則等に係る労働条件明示等に関するQ&A
- ・1.新たな明示ルールの適用時期・対象者について
- ・2.変更の範囲の明示について
- ・3.更新上限の明示について
- ・4.無期転換申込み機会の明示について
- ・5.就業規則の周知について
令和5年改正労働基準法施行規則等に係る労働条件明示等に関するQ&A
1.新たな明示ルールの適用時期・対象者について
【質問1】
今回の改正を受けて、既に雇用されている労働者に対して、改めて新たな明示ルールに対応した労働条件明示が必要か。
【回答1】
既に雇用されている労働者に対して、改めて労働条件を明示する必要はない。
新たな明示ルールは、今般の省令・告示改正の施行日である令和6年4月1日以降に締結される労働契約について適用される。 もっとも、労働条件に関する労働者の理解を深めるため、再度の明示を行うことは望ましい取組と考えられる。
また、有期契約労働者については、契約の更新は新たな労働契約の締結であるため、令和6年4月1日以降の契約更新の際には、新たなルールに則った明示が必要となる。
【質問2】
令和6年4月1日を契約の開始日とする契約の締結を3月以前に行う場合、新たな明示ルールに基づく労働条件明示が必要か。
【回答2】
労基法15条の労働条件明示は、労働契約の締結に際し行うものであることから、契約の始期が令和6年4月1日以降であっても、令和6年3月以前に契約の締結を行う場合には、改正前のルールが適用され、新たな明示ルールに基づく明示は不要である。
もっとも、労働条件に関する労働者の理解を深めるため、令和6年3月以前から新たな明示ルールにより対応することは、望ましい取組と考えられる。
2.変更の範囲の明示について
【質問1】
就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲の明示について、「変更の範囲」とは、当該労働契約の期間中における変更の範囲を指すと解してよいか。
例えば、直近の有期労働契約の期間中には想定されないが、契約が更新された場合にその更新後の契約期間中に命じる可能性がある就業の場所及び業務について、明示する必要はないという理解で良いか。
【回答1】
就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲とは、当該労働契約の期間中における変更の範囲を意味する。
このため、契約が更新された場合にその更新後の契約期間中に命じる可能性がある就業の場所及び業務については、改正労基則において明示が求められるものではない。もっとも、労働者のキャリアパスを明らかにする等の観点から、更新後の契約期間中における変更の範囲について積極的に明示することは考えられる。
【質問2】
日雇い労働者に対して、就業の場所及び従事すべき業務の「変更の範囲」を明示する必要はあるか。
【回答2】
雇入れ日における就業の場所及び従事すべき業務を明示すれば足り、「変更の範囲」を明示する必要はない。 (日雇い労働については、その日の就業の場所及び従事すべき業務を明示すれば、「労働契約の期間中における変更の範囲」も明示したものと考えられる。)
3.更新上限の明示について
【質問1】
有期労働契約の更新回数の上限とは、契約の当初から数えた回数を書くのか、残りの契約更新回数を書くのか。また、通算契約期間の上限についてはどうか。
【回答1】
労働者と使用者の認識が一致するような明示となっていれば差し支えない。
なお、労働者・使用者間での混乱を避ける観点からは、契約の当初から数えた更新回数又は通算契約期間の上限を明示し、その上で、現在が何回目の契約更新であるか等を併せて示すことが考えられる。
【質問2】
改正労基則の規定では、有期労働契約の更新上限については、「上限の定めがある場合には当該上限を含む」と規定されている(改正労基則5条1項1号の2括弧書き)。 厚生労働省が公開しているモデル労働条件通知書には、「更新上限の有無(無・有(略))」という欄があるが、更新上限がない場合にも上限がない旨の明示を必ずしなければならないか。
【回答2】
改正労基則では、有期労働契約の更新上限を定めている場合にその内容を明示することが求められており、更新上限がない場合にその旨を明示することは要しない。
他方で、有期労働契約の更新上限の有無を書面等で明示することは労働契約関係の明確化に資するため、モデル労働条件通知書では更新上限がない場合にその旨を明示する様式としている。
【質問3】
有期労働契約の更新上限の明示について、雇用期間の終期を定めている場合(例:「契約更新した場合でも最長令和10年3月31日までとする」)に、当該終期の明示をもって通算契約期間の明示とすることは可能か。
【回答3】
雇用期間の終期は通算契約期間の終期と同義であり、雇用期間の終期を明示することで労働者が有期労働契約の更新上限を理解することができるため、通算契約期間の明示に当たり、雇用期間の終期を明示することは可能である。
【質問4】
改正雇止めに関する基準1条に基づき、使用者は、通算契約期間又は有期労働契約の更新回数について、上限を定め、又はこれを引き下げようとする理由を労働者に説明することが義務付けられているが、当該理由の説明により、有期契約労働者が納得することまで求められているものではないとされているが、労働者が納得することまで求められていないということで良いか。
【回答4】
改正雇止めに関する基準1条に基づき、使用者は、通算契約期間又は有期労働契約の更新回数について、上限を定め、又はこれを引き下げようとする理由を労働者に説明することが義務付けられているが、当該理由の説明により、有期契約労働者が納得することまで求められているものではない。
【質問5】
通算契約期間又は有期労働契約の更新回数に上限の定めがある労働契約にもかかわらず、労働条件通知書に通算契約期間又は有期労働契約の更新回数の記載がない場合、当該労働契約は、自動的に通算契約期間又は更新回数の上限がない労働契約となるか。
【回答5】
更新上限の定めがあるにもかかわらず、書面による明示が行われていない場合は、労基法15条違反となるが、明示されなかったことをもって、直ちに通算契約期間又は更新回数の上限がない労働契約が成立するものではない。更新上限の内容についての合意の有無等から最終的には司法において判断されるものである。
4.無期転換申込み機会の明示について
【質問1】
労契法18条に規定する無期転換ルールに基づき無期労働契約への転換を申し込むことができる権利(無期転換申込権)を行使しない旨を表明している有期契約労働者に対しても、無期転換申込み機会の明示を行う必要があるか。
【回答1】
明示を行う必要がある。
【質問2】
日雇労働者に対して、モデル労働条件通知書には無期転換に関する記載が無いが、日雇労働者にも無期転換申込権は発生しうるのではないか。
【回答2】
日雇労働者に無期転換申込権が発生することはあり得るものであるが、そのようなケースは容易には想定しがたいと考えられる。このため、日雇型のモデル労働条件通知書には敢えて記載していないものである。
【質問3】
無期転換申込権が生じる有期労働契約の契約更新時に行う、無期転換後の労働条件の明示について、
⑴ 「無期転換後の労働条件は有期労働契約の労働条件から変更がない」旨を書面で明示した場合、有期労働契約の労働条件として書面で明示した事項のみについて変更がない旨を明示したと解されるのか。
⑵ 有期労働契約の労働条件として書面で明示した事項については変更がないが口頭で明示する事項については変更がある場合に、書面では「無期転換後の労働条件は有期労働契約の労働条件から変更がない」として明示を行い、口頭で明示する事項は別途口頭で明示することは可能か。
【回答3】
⑴ 原則として、有期労働契約の労働条件として書面で明示している事項に関して、無期転換後も当該条件と変更がない旨を明示したものと解する。
(注:改正労基則5条の規定では書面の交付等による明示事項となっていない「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」「雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口」は、パートタイム・有期雇用労働法に基づく書面明示事項であるため、有期労働契約の労働条件として必ず書面明示されている。)
⑵ 口頭で明示する事項に変更があった場合には、変更の内容を口頭で明示した上で、そのような取扱いとすることも可能である。
なお、有期労働契約の労働条件として書面で明示した事項については変更がないが口頭で明示する事項については変更があるということを労働者が理解できるよう、使用者は労働者に十分に説明を行うことが望ましい。
【質問4】
無期転換申込権が行使されて無期労働契約が成立した場合の、当該無期労働契約の労働条件の明示について、
⑴ 有期労働契約の更新時に「無期転換後の労働条件」として示した労働条件と、書面で明示した事項には変更がないが、口頭で明示した事項には変更がある場合、「無期転換後の労働条件として○月○日に明示したものと同じ」旨の明示をすることで済ますことは許容されるか。
⑵ 有期労働契約の更新時に「無期転換後の労働条件」として示した労働条件と、書面で明示した事項、口頭で明示した事項とも変更がない場合に、書面で明示した事項に限った意味で「無期転換後の労働条件として○月○日に明示したものと同じ」旨を書面で明示し、口頭で明示した事項については別途口頭で「無期転換後の労働条件として○月○日に明示したものと同じ」旨を明示することは許容されるか。
【回答4】
⑴ 許容されない。
施行通達の記の第1の1⑴ウ④のとおり、有期労働契約の更新時に書面で明示した事項・口頭で明示した事項の別を問わず改正労基則5条1項に基づく明示事項の全てに変更がない場合に限り、変更がない旨の明示によることが許容されるものであり、当該「変更がない旨の明示」は改正労基則5条1項に基づく明示事項の全てに変更がない旨の明示とする必要がある。
⑵ 許容されない。
⑴と同様、有期労働契約の更新時に書面で明示した事項・口頭で明示した事項の別を問わず改正労基則5条1項に基づく明示事項の全てに変更がない場合に限り、変更がない旨の明示によることが許容されるものであり、当該「変更がない旨の明示」は改正労基則5条1項に基づく明示事項の全てに変更がない旨の明示とする必要がある。
【質問5】
モデル労働条件通知書に記載されている明示事項には、労基法に基づく明示事項と、他法律(パートタイム・有期雇用労働法6条、建設労働者の雇用の改善等に関する法律(昭和51年法律第33号)7条及び林業労働力の確保の促進に関する法律(平成8年法律第45号)31条)に基づく明示事項がある。改正労基則5条5項及び6項に基づく無期転換後の労働条件の明示は、法令上、労基法に基づく明示事項のみに明示の義務がかかるが、この明示の際に、他法律に基づく明示事項も任意に明示できることは自明である。
無期転換申込権が生じる有期労働契約の更新時における無期転換後の労働条件の明示において、他法律に基づく明示事項を併せて明示した場合であって、無期転換申込権の行使により成立した無期労働契約においてもそれらの事項に変更がないとき、他法律に基づく明示事項についても具体的な明示を省略し、「無期転換後の労働条件として○月○日に示したものと同じ」旨の明示で済ますことができるか。
【回答5】
無期転換申込権が生じる有期労働契約の更新時における無期転換後の労働条件の明示において、他法律に基づく明示事項を併せて明示し、無期転換申込権の行使により成立した無期労働契約においてもそれらの事項が全て同じである場合において、無期労働契約の成立時に労基法15条の規定に基づく明示を「無期転換後の労働条件として○月○日に示したものと同じ」旨の書面の交付等の方法により明示するときは、当該無期労働契約の労働者に対する他法律の規定に基づく明示についても、同様にその旨を文書の交付等の方法により明示することとしても差し支えない。
【質問6】
無期転換申込権が生じる有期労働契約の更新時において明示された無期転換後の労働条件と、無期転換申込権が行使されて無期労働契約が成立した際に明示された労働条件が一致しなかった場合(例:無期転換権申込権が生じる有期労働契約の更新時に月給50万円と明示されたが、無期労働契約成立後に月給40万円と明示された場合)、無期労働契約成立後の労働条件に沿って当初の明示から減額された賃金が支払われたときは、労基法24条違反が成立するのか
【回答6】
就業規則により「別段の定め」をして、無期転換申込権が生じる有期労働契約の更新時に無期転換後の労働条件として明示された労働条件と、無期労働契約が成立した際に明示された労働条件が一致しない場合、当該変更の合理性は最終的には司法で判断されるものである。 また、個別契約により「別段の定め」をして、無期転換後の労働条件として通知された労働条件と無期労働契約が成立した際に明示された労働条件が一致しない場合についても、その変更部分が就業規則で定める基準に達しないときを除き、当該変更が真の合意に基づくものかは司法で判断されるものである。 無期転換後の労働条件が月給50万円であると司法で判断された場合は、労基法24条違反が成立する。
5.就業規則の周知について
【質問】
厚生労働省が公開しているモデル労働条件通知書に、「就業規則を確認できる場所や方法」の欄が追加されたが、これは労基則の改正に基づくものか。
【回答】
労基則の改正に基づくものではない。
就業規則について、法令上は、労基法106条に基づき、労基則52条の2に定める方法(※)によって労働者に周知させなければならないとされている。
この就業規則の周知について、令和4年12月27日付け労働政策審議会労働条件分科会報告「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」を踏まえ、今般、施行通達において、就業規則を備え付けている場所等を労働者に示すこと等により就業規則を労働者が必要なときに容易に確認できる状態にする必要があることを明らかにしたところ。モデル労働条件通知書への欄の追加は、当該通達改正に対応するものである。
厚生労働省:2024年4月からの労働条件明示のルール変更 備えは大丈夫ですか?